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長椅子と本棚2

ダイアリーから移行しました。

パプアニューギニアの魔女狩りと、ヨーロッパの魔女狩りの根本的な違い

 先日、森島恒雄の名著『魔女狩り』(岩波新書)を読んだ。

魔女狩り (岩波新書)

魔女狩り (岩波新書)

 ところで、偶然この週末、パプアニューギニアでの「魔女狩り」のニュースが話題となった。書評を兼ねつつ、この本がこの事件に関して提供してくれる視点について書いてみたい。

 南太平洋・パプアニューギニア西部の山岳部にあるマウントハーゲンで6日、他人の子供を魔術で殺したとして20歳の女性が群衆に焼き殺された。同国は魔術を違法としているが、魔術を信じる風潮が残り「魔女狩り」が後を絶たない。国連人権高等弁務官事務所は同国政府に「このような犯罪を止め、加害者を裁き、国際法に従って迅速かつ公平な調査を実施する」よう求めた。
 AP通信などによると、きっかけは5日に病院で病死した男児(6)の親族が、ケパリ・レニアータさん(20)という女性の魔術で殺されたと主張したこと。レニアータさんは翌朝、子供を含む多数の住民環視の中、服をはぎ取られ、焼きごてを当てられた。縛られたままガソリンをかけられ、ごみやタイヤの山の上で火を付けられ焼死した。


魔女狩り:20歳女性が焼き殺される パプアニューギニア− 毎日jp(毎日新聞)

 凄惨なニュースである。しかし、今日書きたいのはそのことではない。そうではなくて、この魔女への私刑のニュースと、後期中世から初期近代にかけてのヨーロッパで盛んに行われた魔女狩りとの関係についてである。新書『魔女狩り』は、両者の性質が異なることを私たちに教えている。

 森島は、魔女狩りが本格化するより前の魔女への迫害について、以下のようにまとめている。

なるほど、いつの時代でも魔女は人に憎まれ、恐れられ、ときには支配者によって弾圧されたこともある。〔…〕/しかし、ここで記憶すべきことは〔…〕魔女が迫害されたのは魔女であるからではなく、魔女が呪術を用いて人を殺し農作物を枯らすというような悪を行うからであった。(13ページ)

しかし、後期中世、「魔女狩り」の時代になると様子は一変する。

魔女は、魔女が行った刑事犯的な「行為」のためではなく、その行為以前の「悪魔との結託」という、キリスト教的な「魂の堕落」のために裁かれることになるのである。だから、魔力によってたとえ善行を行った「白い魔女」といえども、その行為以前の悪魔との結託によって「異端者」であり、焼かれねばならぬ、というのが神学的常識となった。(64ページ)

繰り返すと、魔女狩りの時期以前には、魔女は魔術を用いて犯した罪によって罰せられていた。一方、魔女狩りの時期には、魔女は魔女であるがゆえに迫害された。

 ここで、冒頭のパプアニューギニアの記事に戻ろう。ここでは、「きっかけは5日に病院で病死した男児(6)の親族が、ケパリ・レニアータさん(20)という女性の魔術で殺されたと主張したこと」とされている。つまり、これは魔女であるがゆえにではなく、魔術を用いて殺人を行ったがゆえの刑であった。ひとくちに「魔女狩り」と言っても、後期中世の魔女狩りとは性質が異なっている。

 このように、森島恒雄『魔女狩り』は、読まなければ知らなかった後期中世の魔女狩りの特殊さを教えてくれる。また、今日触れた点以外では、自白の強要にまつわる話題が、このところのニュースとの関わりで興味深い。淡々とした描写が続きはするが、内容がその退屈さを十分に補ってくれる一冊である。