長椅子と本棚2

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千早のこと

以下の記事は、無印アイマスにおける千早を念頭において書かれていることを初めにお断りしておく*1

如月千早はなぜアイドルをやっているのか? それは、歌を歌うためである。こう答えられれば、765プロのプロデューサーとしてはさしあたり合格かもしれない。しかし、如月千早のプロデューサーであるならば、もうひとつ、答えなければならない問いがある。

如月千早は、なぜ歌うのだろうか?

失われた家族との幸せ

如月千早はなぜ歌うのか。この問いに答える際に、まず手がかりとなるのは、彼女の家族をめぐるエピソードだろう。弟の死と、両親の不和。そのあらましは、有名な「墓コミュ」、ある日の風景5において語られる。

弟の記憶は、以下の一言によって、彼女の歌とつながる。

「弟は……いつも、私の下手な歌、よろこんで聴いてくれました」

そう、弟がよろこんで聴いてくれた記憶。ここで、千早の歌は弟に、家族につながる。それだけではない。続く千早のセリフは、彼女が弟のほかに失ったものを明かしている。

「私はあの日、たったひとりの兄弟と、幸せだった時間を、同時になくしたんです」

彼女は、弟のほかに、「幸せだった時間」をもなくした。平穏な家族の時間、と言っても良いだろう。これをなくしたことが、7才の少女にとってどれほどつらいことだったか。
この、失われた家族の時間への憧憬。それは形を変えて、千早のアイドル活動そのものを貫いている。

「私が、私でいられる場所」

以上のことを理解した上で、見返しておくべきコミュがある。それは、以下のやりとりを含む、「ある日の風景1」だ。

千早「プロデューサー。どこにもないんですか? 私が、私でいられる場所なんて?」
P「なければ、つくろう」
千「つくる……? そ、そういう考え方はしたこと、なかったです……」
P「はじめから、約束されてるものなんて、ないと思えばいい。それなら、開き直れるだろ?」
千「そうですね。できるまで、続ければいいだけの話……。まだまだ、これからですね」

「どこにもないんですか? 私が、私でいられる場所なんて?」。「なければ、つくろう」。このやりとりには既に、如月千早というアイドルと、プロデューサーとの物語の全てが込められている。なぜなら、ここで言われる「私が、私でいられる場所」とは、弟と、また両親とともに過ごした「幸せだった時間」とは何であったのか、ということについての、彼女自身の解釈にほかならないからだ。千早は、弟が好きだった歌を歌うことで、「幸せだった時間」が取り戻せると錯覚して、あるいは、自分がそうした無理な願いを抱いているということから半ば意図的に目を逸らして、絶望的な努力を続けてきた。そして千早のプロデューサーとは、そんな千早の絶望的な努力を断ち切る存在である。彼は代わりに、彼女に、失われてしまった居場所ではない新しい居場所、しかし、千早が千早でいられる場所という点では同じ意味をもつ居場所を、自分の手で切り拓いていく力を与えてゆくことになるのだ。

千早シナリオにおける「翼」の意味

この「居場所を切り拓く」ということこそ、如月千早の物語の真のテーマである。そしてこれを理解してはじめて、「ランクアップA」、国民名誉賞授賞式で、千早がある言葉を口にする理由も理解することができる。その言葉とは、「翼」だ。

「今なら、どんな海も飛び越えていけそうです。プロデューサーがくれた、翼があるから」

千「今の私は、プロデューサーにとって、どういう存在?」
P「え? そ、そうだな。千早は、俺の……翼だよ。千早がいたから、俺はここまで、飛んで来られたんだ」
千「あ、同じ……なんですね。私たちは、たがいに力を与え合って……」
千「ずっと、同じ空、飛び続けたいです! プロデューサーとなら、私、どこまでだって!」


如月千早の物語における「翼」とは何か。それは、「居場所を切り拓く力」のメタファーである。ここには、駆け出しのアイドルだったころの千早の疑問、「プロデューサー。どこにもないんですか? 私が、私でいられる場所なんて?」から続く、一本の太い幹がある。あのとき、「なければ、つくろう」と言ったプロデューサー。千早は彼の言葉に応え、「私が私でいられる場所」を切り拓いた。プロデューサーも、彼女への言葉に込めた思いを貫き、この開拓のための力を授ける翼として働き続けた。

如月千早はなぜ歌うのか

これこそが、如月千早の物語である。この物語にあって、「歌」はどのような意味を持つのか。なぜ如月千早は歌を必要としたのか。それは、歌もまた、プロデューサーとともに、彼女に力を与える翼であったからだ。弟がくれた、歌という翼。そして、プロデューサーという翼。この二つの翼で羽ばたいてゆく少女の物語こそ、如月千早の物語なのである。


千早、誕生日、おめでとう。

THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 05 如月千早

THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 05 如月千早

*1:2014/02/25、表現の明らかにおかしな箇所や単純な誤字を修正しました。