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長椅子と本棚2

ダイアリーから移行しました。

東大の推薦入試導入が大したニュースではない2つの理由

 東大が推薦入試を導入するらしい。数日前の噂の段階でJ-CASTがものすごい煽り記事(東大の推薦入試導入は「天下の愚策」とOB激怒 「東大生の品質保証は点数」「ガチンコ勝負がプライド」 (1/2) : J-CASTニュース)を載せるなど、話題をさらっている。しかしこのニュース、「東大で推薦入試!」という見出しのインパクトの割には、それ自体は大して重要なものではないのではないかと思う。

 私がこのニュースを「大して重要ではない」と思う理由は、以下の二つだ。

  1. 推薦による入学者は3000人中の100人にすぎない。
  2. 推薦入試導入に伴い廃止される後期試験の評判はもともとそれほど高くなかった

 順に説明していこう。

推薦による入学者は全体の3%

 平成25年度入試における、東大の定員は、文理すべて合わせて3,063人。理科3類が推薦入試の対象外という話もあるから、これを除けば2,963人である(参照:東京大学[学部入学]入学者選抜方法等の概要)。対して、推薦入試の定員は100名程度とされている。(参照:推薦入試の基本的な枠組み※PDFファイル)。単純に考えて3%程度だ。

 Z会の職員だという高畠氏は、定員発表以前の報道に反応して、以下のように述べている。

特に定員ですね。前回の後期試験改革では
後期の定員を大きく減らしました。
「学力重視」という意思が見えました。
定員数に東大の意思が見えてくると思います。
「東大推薦入試」を予想する。 ただいま添削中。 6 〜デジタルですから。〜

 ここで「前回の後期試験改革」とあるのは、平成20年のことで、このときは募集人数が300人から100人に減らされたようだ(東大の入試改革 - 絶体絶命! 小論文 - Yahoo!ブログ)。そして今回の推薦入試の定員も同じ100名程度。この点で、「学力重視」という意思は基本的には変わっていないと言えるのではないか。

もともと後期試験は評判が悪かった

 これまでの後期試験は「総合科目」と呼ばれる、科目横断型の独特の試験を採用していた。例えば昨年度は20世紀の画家オットー・ディックスについて論じた長文を読ませた後でワイマール共和国の歴史を説明させるなど、トリッキーな出題で知られる。(参考:http://www.u-tokyo.ac.jp/stu03/pdf/H24sougou3.pdf

 しかし、この後期試験の評判はあまり芳しくなかった。旺文社の教育情報センターの資料には、以下の記述がある。

 後期試験については、『東京大学の経営に関する懇談会最終報告』(11年+10月)で、「前期試験に対する評価は極めて高いが、後期試験に関しては“受験機会の複数化”に対する肯定的評価を除けば、積極的な評価は少ない」とされていた。そして、当時の入試方法の改善策の選択肢として次の3点が挙げられていた。

  1. 後期試験を廃止し、全体を前期試験に移す。
  2. 後期試験に何らかの変更を加える。
  3. 新たに“第3の入試”を導入する。

旺文社・教育情報センター「東京大、“タフな東大生”育成に向け、 「入試改革」検討を開始 !」※PDFファイル)

11年段階で推薦入試を含む「第3の入試」を視野に入れた検討がなされていたことはそれ自体興味深いが、今回注目したいのは前半である。おそらくは今回の推薦入試導入へとつながる入試制度改革は、「前期試験に対する評価は極めて高いが、後期試験に関しては“受験機会の複数化”に対する肯定的評価を除けば、積極的な評価は少ない」という認識を前提して案出されたものであった。そうだとすれば、推薦入試を前期試験と比較するのは的を外している。はじめから、推薦入試は前期試験に取って代わるものとしては構想されていないのである。

カリキュラムの動向にこそ注目すべき

 このように、入試制度として見た時に、推薦入試の導入自体にはそれほど大きなインパクトは感じられない。しかしながら、それに派生して教養教育カリキュラムの複線化が示唆されている点は興味深い。

 これは、東大の発表の中で「志望分野に対する関心や学ぶ意欲に応えるよう、入学後の履修方法や学部・学科等の進路選択に配慮」として示唆されている。より具体的に、「推薦入学者には、大学院の授業の聴講が許可されるなどの特典がある」(数時間の面接も…東大推薦入試「多様な人材を」 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞))との記事もある。

 これが大きな変化であることは、先ほど引用した旺文社の資料と比較するとわかる。そこでは、以下のように言われている。

 こうした“横割型”の募集枠で入学した後、前半の2年間は全科類とも「教養学部」に所属して“横割型”の「リベラル・アーツ」教育(教養教育:前期課程)を受ける。そこで、柔軟で創造的な学問への志向と態度を養い、自身の適性を見極め、「進学振分け」制度によって専門分野(後期課程:学部・学科等)へ進む。東京大では、こうした教育システムを「レイト・スペシャリゼーション」(遅い専門化)と呼んでいる。
 入試の基本的理念は、このような教育理念・目標と不可分の関係にあり、それを担保する形で入試は実施されてきたといえる。

ここでは、「横割型」であることが東大の教育と入試を貫く理念だとされている。しかし、今後導入される推薦入試の合格者に対しては、特別に大学院の講義を履修させるなど、専門教育に特化した教育がなされていくと予測される。今後長期的なスパンでこの流れが拡大してゆくのか、それともあくまで「リベラル・アーツ」の理念を堅持したままの部分的な改革にとどまるのか、これこそが注目すべき点であると思われる。