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長椅子と本棚2

ダイアリーから移行しました。

「新検索β」に見る、ニコニコ動画と図書館の未来

この夏、ニコニコ動画では、ひっそりと「新検索β」というサービスがスタートした。ニコニコインフォによれば、新検索βの機能は以下のものである。

新検索βは、今までの検索と違い、ほぼリアルタイムにコンテンツの情報が反映される検索システムです。
加えて、以下のことも出来ます。

  • 動画、生放送、イラスト、マンガ、電子書籍、チャンネル、ブロマガを横断的に検索
  • それぞれの検索でのフィルタ機能の強化
  • 動画、イラスト、漫画の検索で、投稿日時の期間を指定


新検索βテスト中!ブロマガも追加!‐ニコニコインフォ

今日話題にしたいのは、これらのうち、検索時に投稿日時の期間を指定できるという一見地味な機能だ。この機能の追加は、動画投稿サイトの未来を暗示しているように思える。

 私は今年2月、「「つるぺた」の誤用はどこから一般化したか」という記事を書き、幸運にも多くの方々にご覧いただくことができた。ところで、この記事を書くにあたって気付かされたことが一つ有る。それは、ニコニコ動画がもつ、アーカイヴとしての重要性だ。このアーカイヴという観点から見た時、投稿日時の期間を指定して検索できるという機能がとても重要になってくる。

 ニコニコ大百科の記述によれば、ニコニコ動画(γ)以来、専用の動画投稿サービスであったSMILEVIDEO(現在はニコニコ動画本体に統合)がオープンしたのは2007年3月6日(SMILEVIDEOとは (スマイルビデオとは) - ニコニコ大百科)。現在、ニコニコ動画では、この時以来投稿されてきた動画を視聴することができる。これは、言い換えると、2007年3月6日から現在に至るオタク文化の歴史を語る際に、最も重要な一次資料のひとつである個人制作の動画にアクセスするにあたっては、ニコニコ動画を経由することになる、ということだ。実際、くだんの「つるぺた」に関する記事で資料となった多くの動画の視聴は、ニコニコ動画を介することで初めて可能となっている。

 このことが意味しているのは、近年のオタク文化について調査しようとする際に、ニコニコ動画が図書館と同様の役割を果たしているということである。ここでいきなり図書館と言われてもピンと来ないかもしれないので、少々説明しておこう。小学館の『日本大百科全書』(Yahoo!百科事典を通してインターネットで閲覧できる)によれば、図書館の主たる機能は「資料の収集・保存、利用とこれに伴ういくつかの奉仕活動」を行うことである(図書館 - 種類と機能 - Yahoo!百科事典)。ところで、ニコニコ動画も、「資料の収集・保存、利用」および、奉仕活動ではないものの、これに伴ういくつかの活動を行っている。まず、ニコニコ動画は、投稿を受け付けるという形で、資料=動画を収集している。そしてそれをサーバーに保存しているのもニコニコ動画だ。さらに、動画プレイヤーを提供し、利用を可能にしている。これに加え、動画検索サービス等が、収集・保存および利用に伴う活動だと言えるだろう。すなわち、ニコニコ動画は、図書館とほぼ同等の機能を備えているのである。こう考えると、オタク文化に関する調査(本当はそれに限らず、個人が作成・投稿する動画が資料として役立つような調査)で資料収集を行う際に、ニコニコ動画が非常に重要な役割を果たしていることは当然のこととして理解されるだろう。この意味で、ニコニコ動画は、一企業の活動としては異例とも言える公益性を有している*1

 冒頭で話題にした「動画、イラスト、漫画の検索で、投稿日時の期間を指定」するという機能は、ニコニコ動画がこのアーカイヴとしての公益性を強化する動きの一つとして理解することができる。私がこう考えるのは、2月に「つるぺた」について書いた際の体験にある。2013年2月の時点では、この機能は存在しなかった。そしてこのことは、記事を書く上で、深刻な問題として感じられていた。実はこの点、「つるぺた」の記事自体は幸運にも資料にアクセスすることが容易ではあった。なぜなら、ニコニコ動画(γ)初期の動画が主要な資料だったからだ。この時期の動画に関しては、「投稿が古い順」に並び替えることで、キーワードさえ適切に選択すれば、比較的容易にアクセスすることが可能だった。しかしこれは裏を返せば、それ以外の時期の動画、特に2009~2011年ごろの動画に検索を介してアクセスすることは、かなり適切にキーワードを選ばなければ難しかったということである。あの記事を書いた際の実感として、分析の対象を2009年以後に拡大することは非現実的だと思われた。しかしながら、期間を指定することができれば、この問題は解決する。それゆえ、今夏から始まったこの機能は、将来ニコニコ動画がアーカイヴとして利用される際に、非常に有用なものとなることが期待されるのである。

 このような動きの根底には、既に指摘したとおり、動画投稿サイトと図書館の類似性がある。両者の関係を今後どのような形にするのがよいのか、ということも大きな問題である*2。原則としては、動画投稿サイトに投稿された重要な資料へのアクセスを保障することは図書館の使命であるように思われる。しかしながら、サーバーを維持し、大量のデータを選別・維持・管理するノウハウとコストを一朝一夕に既存の図書館に導入することは、容易なことではないだろう*3。この過渡的な時期がしばらく続くとするならば、動画投稿サイトが果たすアーカイヴとしての役割は、さらに増大していくことだろう。

*1:この点、実ははてなのような各種ブログサービスや2chのような掲示板サービスも同様である。ブログのようなwebサービス、ならびに各種SNSに関しても、その公益性が見落とされやすいという構造は共通している。GoogleYahoo!も同様の構造を持っているものの、これらの支配的なシェアを持つポータルサイトに関しては、その公益性も既に自覚されているように思われる。

*2:もちろん、問題は日時の指定だけではない。現在思い思いにつけられたタグによって行われている分類の公共性をいかにして高めるか、という問題もある。また、個人が投稿した動画が重要な資料的価値を持つことになる動画投稿サイトでは、最近話題の「忘れられる権利」と「知る権利」の対立が先鋭化した形で現れるという問題もある。

*3:id:myrmecoleonさんがんばれ。