長椅子と本棚2

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GARNET CROWの作品世界における「春」のイメージ

 今日は、GARNET CROWとの思い出に捧げる文章その2、をお送りします(ちなみにその1はこちら→)。今日のテーマは春。実は、Twitterで書いてみたいなーとか言ってたら背中を押していただいたテーマです。

 さて、春の歌といえば、どのようなものが思い浮かぶでしょうか。「春のうららの隅田川」、「春の小川はさらさらゆくよ」、「春よ来い、はやく来い」。春は希望にみち、長く辛い冬の終わりを告げる、夜明けにも似たきらびやかな季節として歌われることが多いように思います。しかしながら、GARNET CROWの世界の中では、春という季節は、多くの場合にネガティブなイメージで扱われています。なぜでしょうか。

 その最大の理由は、春が変化の季節だからです。春における変化としてまず思い浮かぶのは、年度の入れ替わりに伴う出会いと別れでしょう。実際、これを歌った曲もあります。しかし、それだけではありません。仮にこれだけなら、他のアーティストによっても歌われています。GARNET CROWの春を特徴づけているのは、春という季節それ自体が、変化の季節として捉えられているということです。

 一般的には、季節の移り変わりを物悲しく感じ取る季節と言えば秋が挙げられるように思います。夏の思い出になんとなく後ろ髪ひかれつつ、じわじわと空気が冷たくなってゆく、その様に世の無常を感じる。GARNET CROWの楽曲にも、『夏の幻』や『失われた物語』など、こうした変化の季節としての秋を想起させるものがあります。しかし、GARNET CROWの曲においては、長い冬が終わって春がやってくるという変化からも、同様の物悲しさが換気されることが少なくないのです。

GARNET CROWの描く春

 ここからは実際の作品に沿って、春が変化の季節としてどのように描かれているのかを鑑賞してみましょう。

この手を伸ばせば

 まず、『この手を伸ばせば』をお聴きください。

Locks(初回限定盤A)(DVD付)

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(収録されているアルバムを紹介しています。以下同様。)

この手を伸ばせば 君に届くけど
君はもう あしたを
その瞳(め)にみてるんだね
春、名残り日

この手を伸ばせば GARNET CROW 歌詞情報 - goo 音楽

 ここでの春は、惜別の季節としてスポットを当てられているように思います。皆が未来へと目を向ける春。「君」も同じように、未来を見つめています。一方、このうたの主人公は、手を伸ばせば届く距離にいながら、追うこともできず取り残されてしまいます。このやりきれない気持ちが、「春、名残り日」というフレーズに凝縮されています。

 特に注目していただきたいのは、この「春、名残り日」フレーズから感じられる「くぐもった哀しみ」です。まだそこにある、それなのに、だんだんとなくなってゆく。この感じは、他どの季節よりも春にこそふさわしいように思います。

 ちなみに、声優の藤田咲さんがGARNET CROW解散に寄せて書かれたブログの記事タイトル「春、名残日。」も、この歌詞からきています。解散が発表されたライブではギターの岡本さんが「この日のためにとっておいた」という意味深な言葉とともに、アコギで弾き語りをされていました(もちろんそのときは言葉の意味を知る由もなかったのですが)。このフレーズをぽんと持ってくるあたり、もしかしたら藤田さんはライブにいらしていたのかも…?

lose feeling

 次の曲に行きましょう。『lose feeling』。

GOODBYE LONELY?Bside collection?(初回限定盤)(DVD付)

GOODBYE LONELY?Bside collection?(初回限定盤)(DVD付)

人々は 短い一生(じかん)の中で
あれこれと 何かをさがすけど

温もりを感じられぬ 春の日の様に
思えてしまうのです。君なしじゃ

lose feeling GARNET CROW 歌詞情報 - goo 音楽


 「温もりを感じられぬ」ときたら、普通に考えたら冬か、あるいは秋でしょう。そこに敢えて「春」を持ってくることで、期待してしまうのに満たされない辛さが見事に表現されています。そのものズバリのネガティブなタイトルですが(しかし曲調は美しく希望や安らぎすら感じさせます)、喪失感を表現する上で、「春」が印象的に用いられています。

やさしい雨

 次の曲は『やさしい雨』です。

All Lovers

All Lovers

何処かで つながるといいなぁ
君の’好き’と僕の’好き’が出会うといいな
どちらを選んでも今は
切ない気持ち 残すよ やさしい雨のよう

やさしい雨 GARNET CROW 歌詞情報 - goo 音楽

 この曲の詞には春という言葉こそ出て来ませんが、しとしとと包み込むように降る春の雨のイメージがぴったりと合う曲です。この曲でも惜別が歌われていますが、ここでは『この手を伸ばせば』と違って、未来への期待も入り混じった複雑な心境が、アップテンポな曲調と相まって表現されています。しかし、春の今ここに残るのは、やはり「切ない気持ち」なのです。

巡り来る春に

 次に、彼らの1stアルバムから、『巡り来る春に』。

first soundscope?水のない晴れた海へ?

first soundscope?水のない晴れた海へ?

何も手にせずに生まれてきたから
このまま世界に終わりを告げたい
悲しいのは失うよりも
いつの日かまた立ち上がること


巡り来る春に
旅立つ足音
花の灯に見送られて

巡り来る春に GARNET CROW 歌詞情報 - goo 音楽

 これでもかというくらいネガティブなフレーズが並んでいますね。これからどんどん活動してゆこうという希望に満ちているはずの1stアルバムの、しかも春をテーマにした歌で、「このまま世界に終わりを告げたい」。衝撃的と言ってよい言葉ではないでしょうか。少なくとも私はこれに打ちのめされ、この人達ちょっとヤバい、付いて行かなくちゃ、と思わされました。

 まあそんな私の思い出はどうでもよいのですが、着目すべきは「旅立つ足音」「花の灯に見送られて」でしょう。やはり春は旅立ち、別れの季節。聴覚イメージと視覚イメージの対比も光っています。

 そしてもうひとつ、GARNET CROW「らしさ」が現れているのは、「悲しいのは失うよりも いつの日かまた立ち上がること」というフレーズです。失うことではなく、次に立ち上がる日を想って嘆く。今起こっている、喪失という変化の哀しみにすらとどまることが許されず、その先にはまた新たな変化が待っているということの哀しみ。喪失だけでなく再起も変化であって哀しみを生むというのは、気温も上がって、喪失よりはむしろ再起に近い変化の季節である「春」に哀しみを感じることとも通底しています。

この冬の白さに

 最後に、『この冬の白さに』。

I’m Waiting 4 You

I’m Waiting 4 You

この冬の白さに 心を閉じ込め 君のそばで眠りたい
何故雪解けのように 流れてしまう 澄んだ思いよ

(中略)

la-la- この町の冬 その白さの中 大切な人 とどめたい
春を願う人々 とけだしてゆく 白い世界よ

この冬の白さに GARNET CROW 歌詞情報 - goo 音楽

 ここでは、冬から春への変化が描かれています。そしてこの曲にこそ、変化と哀しみの季節としての春が最もはっきりと表現されていると私は思います。この曲では、多くの場合疎んじられ、早く去ることを望まれる寒く閉ざされた冬こそが、澄み切った美しさの象徴として扱われています。そしてこの冬と対になって、その美しさを奪ってしまう「雪解け」の季節としての「春」が、非常にネガティブなイメージで捉えられています。

 また、春という季節が雪を溶かし、それを流れ出させてしまうことと、人々の想いとの間の類比も秀逸です。春の陽気は雪を溶かすだけでなく人々をも浮き足立たせ、彼らの住んだ想いも、とけだしてしまう。しかも、人々は自らそのような春を願うのです。歌の主人公だけが冬の美しさに思いを馳せ、取り残されてしまいます。ここには、初めに紹介した『この手を伸ばせば』の「春、名残り日」というフレーズにも通じる切なさが凝縮されています。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。GARNET CROWの世界は、よく「無常観」という言葉で特徴づけられます。これは、同じではいられず移り変わる世界への眼差しこそが、GARNET CROWの世界の根底にあるということです。「春」という季節に込められた切ない想いは、この「無常」を見つめる彼らの作品世界を象徴しているように思います。