長椅子と本棚2

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パートに正社員と同じ仕事をさせるのは悪か?

 こちら読みまして。ご本人の心中についてはもう、大変でしょう、お察しします、としか言えないのでありますが。それはそれとして、この話の辛さは、ある程度ちゃんと分析しておくほうが良いと思うのです。

 というのは、このエピソードは、非正規と正規の格差の問題という文脈よりむしろ、成果主義の副作用という文脈で理解したほうがよいのではないかと思うからです。少なくともパートに正社員と同等の仕事をさせることそれ自体がオカシイ、と即断することはできません

 例を挙げて考えてみましょう。MK2さんのブログ記事では、バイトを含むクルーに使命感を与えて快楽を得させている、というエピソードが何度か登場していました。

 「だれでもできることは可能な限りクルーに」というのが原則となる。その見極めが難しいところだが、ここでは単純に「手順作業化できるもの」と考えたい。そうすると、体を使う仕事の大部分はクルーに押し付けられることになる。むしろそうでなければ自分の自由度が下がる。
 そんで、クルーをその「手足」のレベルにまで持ってくための教育。これが管理者の重要な仕事。柱になるといってもいい。教育のやりかたは、まず概念とか体系を叩き込む。これは記憶してもらう必要はない。核心は、すべての作業には意味があるということ。ルーチンは基本退屈なんで、その「退屈」というのをいかにひっくり返してやるか。退屈というのは「意味がない」ところに発生してる。快楽の体系を刺激しないことによって発生してる。意味づけってのは使命感とかを通じて「快楽」を発生させるための有効な手段なんで、それを刺激することを第一とする。
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この例は極端かもしれません。しかし、バイトだけどちょっと自由に仕事させてもらえるようになって楽しかった、という経験は、それほど珍しくはないのではないでしょうか。このことは、バイトには軽微な仕事だけをやらせるべきというわけではない、ということを支持しているように思います。

 さらに、もう少し検索すると、「小売業におけるパートタイマー活用の現状と展望(pdf注意)」という2005年の論文を拾って読むことができます。幸いサーベイ論文なので、個人的な見解というよりは様々な研究成果を知ることができます。書かれていることの中で関係しそうなことをかいつまんで紹介すると、

  • パートに重要な仕事を任せる流れは進む
  • 統計的には、このことによる有意な悪影響は見られない
  • これに伴いパートの給与はある程度上がる・正社員の8割が妥当なライン
  • 給与の差が不公平感につながりやすいのは「責任を伴う仕事」を任された場合

といったことが書かれています。これらのことから、「パートに正社員と同じような仕事を任せるのがおかしい」という結論は、統計的にも支持されない、と結論することができます*1

 もちろん、増田さんの職場に問題がないとは思いません。しかし、その問題は、

  • 「それがパートと正社員の違い」という思考停止したコメントしかくれない上司
  • 「やめなきゃいけない状況で仕事を引き継がなければならず、自分にメリットはない」という状況

辺りにあるのであって、

  • 「これまで正社員と同等の仕事をさせられてきたこと」

には求められないのではないかと思います。そうだとすると、このエピソードは、「非正規と正社員の格差」という文脈より、「成果主義の副作用としてのノウハウ共有の阻害」という文脈に置かれるべきだ、ということになるでしょう。

*1:もちろん、論文の中にもあるように、全ての仕事に関してあてはまるわけではありません。特に責任を強く伴う仕事はパートに任せるべきではありません。