長椅子と本棚2

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武内Pの失敗に学ぶ、経営と教育の心理学

武内Pのテンション管理

 アイドルマスターシンデレラガールズが快進撃を続けています。1~3話の爽快感、4話での工夫の凝らされたキャラクター紹介、そして5話、6話と徐々に現れる綻び。前川みく本田未央、そしてプロデューサーそれぞれの行動が議論を呼ぶ、目の離せない展開となっています。
 
 さて、5話と6話は、それぞれ前川みく本田未央にスポットが当たった会でした。そして同時に、「武内Pの未熟さ」(と、過去)に視聴者の関心が集まっていく会でもありました。
 
 5話、6話を通じて露呈したプロデューサーの問題は、本家のアイマスで言えば「テンション管理」に失敗しているということです。失敗の構造は、教育や経営の分野でよく応用される、「モチベーション」に関する心理学の知見を用いて理解することができます。(ちなみに、アイマスにおける「テンション」は、下がるとレッスンをサボってしまうという点からも、「士気」や「モチベーション」に似たところがあるように思います。)
 

期待・価値とモチベーション

 さて、モチベーションについての理論を、マネジメントや教育の場面で活用しやすいように簡略化したモデルとして、「期待」と「価値」によってモチベーションを説明するものがあります*1「期待」とは、「いまやっていることが、将来の何らかの結果つながっているはずだ」という確信のことです。「価値」とは、「将来の何らかの結果」が自分にとって望ましいという判断のことです*2
 
 「一日一時間ウォーキングをすることで、体重を5キロ減らす」というダイエットを例に考えてみましょう。このダイエットを続けることができる人は、「ウォーキングが体重減をもたらす」という確信、「期待」を持っているはずです。もし、ネットなどで「ウォーキングはダイエットには逆効果!」のような記事を見てそれを信じていたとしたら、ウォーキングへのモチベーションは上がらないでしょう。つまり、モチベーションを上げるためには「期待」が必要です。また、「体重減」という結果に価値を感じているということも重要です。この人がすでに痩せ型の体型であり、それ以上痩せる必要を感じていないのであれば、結果は「価値」を持たないため、やはりウォーキングへのモチベーションは上がりません。
 

前川みくの場合

 この理論を念頭に、第5話、第6話それぞれの展開を振り返ってみましょう。第5話では、「このままではデビューさせてもらえない」と思い込んだみくがストライキを起こします。この行動は、「普段のレッスンがアイドルとしての成功につながる」という確信、期待を持てなくなったことに由来しています。全く聞かれなデビューの話。それどころか、自分を差し置いて、たまたま城ヶ崎美嘉に気に入られただけの新入りがCDデビューにこぎつけるという状況。いまの努力と将来の成功の間に、つながりを見出だせなければ、努力に対するモチベーションは失墜していまいます。
 

本田未央の場合

 未央の場合にも、プロデューサーは、未央の期待を適切に管理することに失敗しています。未央の問題はみくの場合より複雑で、いくつか説明の仕方がありえます。また、友達を呼んでしまったことによるメンツの問題などもあるでしょう。しかし、ここでは簡略化して、結果から価値へのフィードバックだけに注目してみます。
 
 1stライブの結果は、プロデューサーの目からみれば、また、多くの視聴者の目にも、十分価値のあるものでした。駆け出しアイドルの初めてのライブ。状況を総合的に考えれば、今後につながる、価値の高い成果が得られたライブだと判断できたはずです。しかし、未央にはその判断ができなかった。このライブに価値があると感じられなかった。主観的な満足度の低さは、「価値」の値を下げる変数としてフィードバックされます。この結果、未央のアイドル活動へのモチベーションは一気にマイナスになってしまいました。
 

プロデュースの心理学

 いずれの失敗についても、その原因は、「誠実であること」を重視しすぎるあまり、モチベーションへの配慮が欠けていた、という点に求められるように思います。みくの場合にも、現在の状況が期待を低下させかねない、ということを予想して、低下を防ぐための努力がなされるべきでした。たとえば、本決まりではないにせよ、「皆さんがトップアイドルになれる、最もよいタイミングと組み合わせを検討している」くらいのことは言ってあげるべきだった、ということになるでしょう。未央の場合には、みくの場合より予測するのは難しいにせよ、アイドル活動への幻想が大きすぎるという可能性を考慮すべきだった、ということになるでしょう。結果から期待への負のフィードバックを防ぐため、「1stライブはお客さんは少ないかもしれない、しかし、この段階で一人ずつファンを獲得していくことは、将来の大成功のためには大きな価値がある」というメッセージを、繰り返し伝えるべきでした。
 
 武内Pは「未熟なアイドルに寄り添いながら高みへ導く」という、アイマス世界で理想とされるプロデューサー像からすれば、未熟であった、ということになるでしょう。もちろんそれは作品としての評価を下げるものではなく、そこにドラマがある、ということです。これからどうなるんでしょうね。楽しみに待ちましょう。

*1:インターネットで読める比較的詳しい説明は、以下のサイトにあります。「期待理論」から、やる気を考える | モティペディア - Minagine キャリア・サポート

*2:本当はもう少し細かく説明すべきこともありますが、それを始めると誰も読まなくなってしまうのでかなり簡略化しています。