「沼」というネットスラングの歴史
昨年辺りから、「沼」というネットスラングが大流行していますね。たとえば昨年12月に投稿され、3万を超えるRTを獲得している以下のツイート。
オタクが沼にハマるパターンっていくつかあるけど、よく見るのはこんな感じです。 pic.twitter.com/KTaGUZd4a8
— よう #365日の百合 残り28日 (@oshiroi_you) 2014, 12月 23
この「沼」というスラングは、「沼にハマる」という語感から、あるジャンルにハマって抜け出せなくなる様子を表す言葉としてよく使われています。今回は、この言葉がいつごろから使われているのか気になって調べてみました。
遡ってゆくと、昨年2月には既に、この言い回しに反発する記事が書かれています。
(女性オタ界隈で)好きなジャンルのこと「沼」って言うのが目につく
ジャニーズからアニメ作品まで、はまってるジャンルのことを「沼」と言うらしい。
沼というのは、ハマったら抜け出せずズブズブと沈んでいくから、というような意味がある。
ヒモに貢ぐ感覚が近いと思う。例えば「ガンダム沼」というふうに使う。
この記事から、この頃にはすでにこの言い回しがかなり広まっていたこと、また、この表現が、昨年前半頃までは主に女性向け方面で広まっていたということがわかります。(現在でも女性向けの方が用法は多そうですが、男性向けでも「沼」という表現を使うことは珍しくなくなっていると思います。)
それでは、女性向け界隈での用法が「沼」という表現の起源なのでしょうか。実は違います。もっと遡って時期を指定しつつGoogleに聞いてみると、この表現を最も古くから用いていたのは、カメラ界隈、いわゆる「レンズ沼」の方面です。レンズ沼という表現の歴史はかなり古く、2000年代前半には既に一般的に用いられていたようです。Googleで見つけられた限りでの最古の用例は、2000年11月に書かれた次の記事に出てくる「ライカ沼」でした。
ライカオヤジとは、また少し趣向が違うようだが、私はまだライカの方が使ってみたい気分になる。安ければひとつ欲しいと思うが、ライカ沼にはまろうとは思わんな。
http://joe-spot.com/report/rep20001115.htm
この記事を書かれた方が新たに作った言い回しというわけでもなさそうなので、これ以前にも、インターネット上にアーカイブの残っていないところで、このような言い回しが用いられていたのでしょう。これ以上の起源は、それ以前からのカメラ趣味の方々に直接聞いてみるしかなさそうです。
というわけで、「沼」の起源は女性向けジャンルではなく、カメラ方面だということがわかりました。それでは、この表現はいつごろから、なぜ女性向けに広まっていったのでしょうか。
私が見つけられた限りでは、転換点になったのは、2013年前半に現れる「沼ドル」という表現のようです。もちろん「ハマると沼のようにズブズブと抜け出せなくなるアイドル」のことなのですが、面白いことに、これは初めは固有名詞(より正確に言えば確定記述)だったようなのです。沼ドルとはだれか。それは、嵐の大野智です。
大野智=沼ドル
こんな言葉がある一部では定着してきましたが、
つまり、大野智という人は、一度はまるとずぶずぶと抜け出せなくなっちゃうアイドルという意味で。
もれなく私もその一人です。だからこの言葉を聞いたときは言い得て妙だと思いましたよ。
なぜ抜け出せなくなるのか?
もっともっと知りたくて、深みにはまってしまう。
それはね、彼の言動があまりに小出し過ぎるからではないか?
この記事を見るに、今よりももっと多くのニュアンスを込めて、「沼」という表現が用いられていたようです。この、「大野智=沼ドル」という表現がジャニーズ界隈の一部で定着し始めたのが2013年2月。女性向けジャンル全般への爆発的な広がりのきっかけは、ここにあったと見て間違いないでしょう。こうして、レンズやカメラに限定して用いられていた「沼」という表現が、オタク趣味全般に関して用いられる道が開かれることになりました。この表現がこのまま定着するのか、一過性の流行語で終わるのか、興味深いところです。